大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和39年(ワ)14号 判決 1967年11月30日

主文

被告は、原告に対し、金二、六三四、〇一二円および昭和三八年六月七日いこう完済までの年五分の金銭を支払わなければならない。

原告の被告に対する残余の請求は棄却する。

被告に、訴訟費用を負担させる。

原告は、被告に対し、勝訴の部分をかぎり、仮執行することができる。

事実

申立

(一)、原告は、「被告は、原告に対し、金三、二六三、四九〇円および昭和三八年六月七日いこう完済までの年五分の金銭を支払せよ。被告に訴訟費用を負担させる。」との判決のほか、仮執行の宣言をも求めた。

(二)、被告は、(一)に対し、「原告の請求を棄却する。原告に訴訟費用を負担させる。」との判決を求めるとともに敗訴したときのため、仮執行をまぬがれることができるとの宣言をも求めた。

主張

原告は、要約として、

(三)、原告は、昭和三八年六月六日午前一一時五五分ごろ、京都市中京区西堀川通錦小路交差点の付近を南北に通ずる幅員二四、六メートルの南行車道第三区分帯を足ぶみ二輪自転車で南進し同交差点の北東から斜右に横断しかけたさい、被告の被用者の中井洋允が第二区分帯を普通四輪貨物自動車で南進してくるなり、急制動をかけ把手を右方にきつたものの、同自動車の左前部を原告の自転車に衝突させて転倒させ、右頸骨腓骨の開放骨折を負わせたけつか、原告は、即日から一九日間と一四日間を四条外科病院に入院し、八ケ月一七日間と六ケ月九日間を同病院に通院し治療につとめたけれども、結局右膝関節と右足関節の屈曲と伸展に制限をともなう右足跛行の後遺障害がのこることとなつた。

(四)原告は、かくて、本件の事故のため、金三、二六三、四九〇円の損害、それを内訳すれば、

(い)、金一三三、〇八〇円は、原告が前記のとおり四条外科病院に入院又は通院した期間を通じ、医療費として金一二七、〇八〇円、交通費(タクシー往復一回に金二〇〇円を三〇回分利用したもの)として金六、〇〇〇円を支弁したもの

(ろ)、金九一七、九一〇円は、原告が事故前からフランスベツト販売株式会社京都支店の販売員として勤務し一月当り金六五、五六五円平均の給与をうけていたのに、前記のような障害をうけ昭和三八年六月六日いこう昭和三九年七月二〇日まで休業しなければならなかつたため、同期間に得られるはずであつた給与の全額を失うにいたつたもの、

(は)、金一、七〇〇、〇〇〇円は、原告が前記のとおり長期の治療を要する傷害をうけたほか、いつまでも後遺障害になやまされなければならないことにもとずき、精神上すくなからぬ苦痛をうけたのを慰藉するため支払われるのを相当とするもの、

(に)、金五一二、五〇〇円は、原告が上述のような金銭の賠償を求める訴を起そうとしても自ら遂行するだけの知識がなく弁護士にそれを委任するのよぎなかつたため、着手金として金一〇二、五〇〇円報酬金として金四一〇、〇〇〇円を支払う契約をむすんだもの、

を合算した数額の損害をこうむつた。

(五)、原告が、しかるに、本件の災厄にあつたのは、被告のかわでかねてから自動車の修理業を営み、被用者の中井洋充をそれに従業させてきたところ、たまたま、問題の自動車の所有者である共盛市場運輸企業組合から修理のため寄託をうけ保管していた同自動車を中井洋充が運転していたおりからのことゆえ、被告においては自動車損害賠償保障法第三条の保有者として、事故により生じた損害を賠償しなければならない義務があるものとすべく、そうでないとしても、中井洋允のがわで前記のとおり問題の自動車を運転し被告の事業を執行するにさいしては、たえず進路の前方と左右の安全なことを確認したうえ走行しなければならないにかかわらず、うかつにも、前方の警戒をかいたまま進行したという過失をおかしたため事故がおこるにいたつたものであるから、被告においては、民法第七一五条の使用者として、同様の損害を賠償しなければならない義務があるものというべきである。

(六)、原告は、そこで、被告を相手とり、前前項の金三、二六三、四九〇円および昭和三八年六月七日、すなわち本件の事故の次日いこう完済までの年五分の損害金(遅延による)の支払を求めるわけである。

被告は、

(七)、原告の(三)で主張する事実のうち、さような日時と場所で被告の被用者の中井洋允の運転する自動車が主張のとおり原告の自転車に衝突して転倒させたこと、原告が主張のような傷害を負い四条外科病院に入院又は通院したことは認めるけれども、治療の程度は認めることができなく、残余の部分は不知として争う。

(八)、原告(四)で主張する事実のうち、原告が事故前から主張のような職業についていたこと、同上のとおり入院又は通院したことは、認めるけれども、

(い)ないし(は)の金銭は、いずれも過文に失するもので、主張のとおりを認めるわけにゆかなく、

(に)の金銭は、元来、被告がわにも応訴権があるいじよう、原告の主張を不法に争うものでなく、いうとおり弁護人に着手金と報酬金を支払うことは本件の事故と通常の因果の関係がある損金とはいえないものである。

(九)、原告の(五)で主張する事実のうち、被告が主張のような事業者で問題の自動車を主張のとおり寄託され保管していたおりから、被用者の中井洋充がこれを運転し本件の事故をおこしたことは認めるけれども、残余の部分はすべて認めることができない。

原告は、あたかも、被告に自動車損害賠償保障法第三条の保有者又は民法第七一五条の被用者として損害の賠償をしなければならない義務があるかのようにいうけれども、被告のがわでたとい同上のとおり問題の自動車を保管していたとしても、それの保有者はいぜん共盛市場運輸企業組合なのであるから、被告のがわには使用者として損害を賠償する義務しかないところ、中井洋允においては問題の自動車をひそかに使用するため盗出し無断で被告の業務と関係なく私用のために運転していたものであつて、しかも被告のがわではさような盗出を防止するため相当の注意をはらい監督していたものであるほか、中井洋允のがわに主張のような過失はなく、かゝる原告が第二区分帯の横断路でない個所を斜南に横断しかけたこと、第三区分帯からさように進出するときには、それの直前に右方の安全なことを確認してのち移動する義務があるのに、それを確認しないで中井洋允の進路に突入したということのほうに過失がみられるゆえ、使用者としての責務をとわれる余地もないものである。

(一〇)、原告の(六)で請求する金銭は、失当なものである。

被告が仮に同上の金銭を支払わなければならないとしても、原告は、昭和三八年一二月一三日、中井洋允との間で、本件の事故にもとずく損害の賠償の数額を金二五〇、〇〇〇円と限定し、内金一一〇、〇〇〇円は即時に授受し、内金一〇〇、〇〇〇円は共盛市場運輸企業組合を契約者とする自動車損害賠償保障法第一六条による金員を原告に受領させ、残金四〇、〇〇〇円は近日に授受することとして裁判外の和解をしたうえ、残余の債務を免除し、ほどなく全額の履行がおこなわれたところ、被告はもともと中井洋允と連帯で債務を負うているものであるから、さような免除の効力をうけ、請求の金銭を支払わなければならない義務がなくなつたものである。

仮にそうでないとしても、被告においては前段のように支払がなされた金二五〇、〇〇〇円を差引いた残額を支払えば足るものというべきである。

又仮に、上述のすべてが当をえないとしても、本件の事故で原告のがわに過失があること前掲のとおりであるから、賠償の数額を算定するのに、それをしんしやくされるべきである。

と主張した。

証拠(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例